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スペイン・コンサート漫遊記(4)          2004年8月25日 発行

 アルメリアからグラナダに移動して2日目、ホセ・マヌエル・カーノを交えてのパーティーを計画。会場はエミリア未亡人が一人で住む、故マヌエル・カーノ先生のお宅だ。

 私と野口、ホセ・マヌエル・カーノ夫妻が先着して、アルハンブラ宮殿観光を終えたグループ一行の到着を待つ。予定通りの到着を出迎え、カーノ先生の遺影が飾られる応接室でホセ・マヌエルから先生の業績の記念品などの説明を受ける。その後、私が始めのころ寝泊りさせてもらっていた3階のスタジオに上がりワインで乾杯。エミリア未亡人準備の生ハムやチーズをつまみながら一頻り過ごし、いよいよプライベートコンサートの開始。

 皆の間近でホセ・マヌエルの熱のこもった演奏が1時間近く続き、最後は練習したてのコーヒールンバを吉川・野口と3重奏し幕を閉じる。全員が幸せに満ちている様子が手に取るようにわかる。皆は日本での再会を約束し、興奮状態でホテルに戻った。

 グラナダ最後の日、例によって定員オーバーで専用車に乗れない私と野口、3日前から仕事先のドイツから合流した私の兄も一緒に路線バスでマドリードへ向かう。専用車の河野号は途中アマポーラの群生を求めてラ・マンチャをひたすら走ったとか…。マドリードに近づいたとき、我々の乗るバスの横を河野号が抜き去っていくのが見えた。

 その夜、マドリードの街へ出てお別れの晩餐会となった。折しも、スペイン皇太子の結婚式直前の警戒態勢で交通規制のためタクシーが使えず、にぎやかな夜の街をそぞろ歩き、怪しい男のグループに私の財布を狙われたりしながら、河野さんお勧めの海鮮料理の店へ到着。海老・カメノテ・マテ貝・うなぎの稚魚…など、店内のほかの日本人ツアー客がうらやむほどのご馳走とよく冷えたガリシア地方の白ワイン、最後は、さくらんぼのデザートでしめた。

 帰国の段になって、皇太子結婚の交通規制が影響し、マドリード空港で飛行機に乗り遅れそうになり、重い荷物を持って空港内を駆け回り、クタクタひやひやもののハプニングもあったが、無事に機上の人となった。

 まもなく、ホセ・マヌエル・カーノがやってくる。一緒にビスニエト・デ・トーレスことフランシスコもやってくる。私はこれからのコンサート準備のためにスペインまで行ったつもりだったが、今から考えてみると、ツアーの人たちに再会の喜びを演出するために行ったような気がする。また、私が感じたスペインの魅力が音楽となった場面を、実際に現地を見てもらうことにより、音楽の発生する瞬間を感じてもらえるような、より近しい芸術との触れ方を提供できたような気もする。

 ホセ・マヌエルとフランシスコが来日している2週間のあいだ、私は全行程の行動を共にするので、もう一度スペインへ戻ったような生活になる。いや、随行・通訳・演奏・司会・マネージメントの仕事ではるかに忙しく厳しい。しかし、この激務は数多くの素敵な出会いと感動の連続で必ず報われるだろう。カーノ先生の日本ツアーの随行の時もそうだったように…。     (おわり)

 弦の音が響く広間や扇風機
 げじげじがフロントガラスを散歩する

                                                      一葦